「会いたい」でいっぱいになったなら
出るとそこはダイニングになっていて、コウさんがキッチンに立っていた。

「コウさん?」
お伺いを立てるように呼ぶ。

コウさんはフライパンの中の卵をくるっと返すところだった。
「っと。おはよ」

コウさんの優しい目が合ってドキッとする。

「おはようございます。あの・・・昨日なんですけど・・・」
コウさんはお皿に卵を移し、
「昨日のこと、覚えてる?」
と聞いた。

「・・・すみません。あまり覚えてないです」
「そうかなーって思った。
まあ、とりあえず朝ご飯を食べよ?昨日のこと聞きたいでしょ?」
「う・・・。はい」
「はははっ。めちゃくちゃ神妙な顔してる」


二人でソファの前にあるローテーブルに朝食を置いた。
そのまま、美琴は正座をし、深々と頭を下げた。
 
「昨日はご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
「ちょちょちょ、土下座とかなし!土下座するのは俺の方だし」
と慌てるコウさんに、

「それは・・・つまり・・・コウさんが土下座しなくてはならないようなことをしたということ・・・?」
と美琴は頭を上げながら恐々と尋ねた。

「美琴は全く覚えてないの?それとも少しは覚えてるの?」
コウさんに呼び捨てにされ、どきりとした。

呼び捨てにされるような間柄になったということなのだろうか?
とりあえず、そこはスルーして昨夜のことを思い出す。


「えっと・・・お肉がおいしかったとか・・・ワインがおいしいとか・・・お店を出た記憶は・・・・ない感じ・・・です」
「そっか」
「何があったのでしょうか?」

コウさんはローテーブルに右肘を付け、口元に手をやり、少し考えているようだった。


この沈黙がいたたまれない・・・。
そう思いながら、コウさんがしゃべり始めるのをじっと待った。
 

コウさんは視線を戻し、再び美琴の顔をしっかり見て、にっこりと営業スマイルを見せた。

「ざっくり言うと、駅の近くで寝ちゃってここに連れてきて、一緒に寝た」
「ざっくり過ぎ!」
つい秒で突っ込んでしまった。


コウさんはごめんごめんと謝ると、昨夜のことを話し始めた。



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