「会いたい」でいっぱいになったなら
「最初、美琴をソファに寝かせて俺は風呂に入ったんだ。
戻った時には、美琴は床に落ちてて。そのまま寝てて」
コウさんは思い出してくすくすと笑っている。

「その後、ベッドまで運んだら美琴が起きたんだ。
俺を見てくる美琴は、すごくかわいくて・・・。
で、キスして、服を脱がせて。
さあこれからいろいろしようって時に、寝ちゃった」
「い・・・いろいろ・・・?」

「そ。いろいろ。でも俺がいろいろする前に美琴、いびきかいて寝ちゃった。ぷっはははははは!」
「ちょっと!なんで爆笑してるんですか!?」

「はっはっはっはっ!ごめんごめん思い出しちゃってー!」
「思い出し笑いの種、何一つないですけど?」

「いやいや」
言いながら鼻をすっと擦ってこっちを見るコウさんが、少し色っぽくててドキッとしてしまった。

「ベッドに運んだら美琴は起きちゃってね。
俺と見つめあっちゃって。
なんだか、もうかなり色っぽかったんだよ。
Tシャツを少し摘まむとことかかわいいし。
あーこれって誘われてるよなーて思ったらさあ・・・・あはははは!『ぐーぐー』いびきかき始めちゃって!はははは!」

「えええええ!いびき!?しかも「ぐーぐー」?本当に?!」

「本当、本当。こんなかわされ方初めて!」
「もうやだ!恥ずかしすぎる!」

「いや、もう。本当にかわいかったよ!あははははは!」
「かわいいって言いながら笑ってるじゃん!」

からから笑っているコウさんを見ていたら、こっちまでおかしくなってきて、二人で笑いが止まらなくなってしまった。

「「ふうー」」

二人で一通り笑い終わった後。

私はいろいろは・・・しなかったんだと寂しく思った。
ん?なんかちょっと残念って思っちゃった?

いやいや。まずいでしょ、私。
なに考えてるんだー!
と一人頭の中はヒートアップしていた。


「ねえ美琴」
コウさんが優しく呼んだ。
美琴を見つめながら少し近づいた。
 
「?」
小首をかしげる。

「俺と付き合わない?」

コウさんが真剣な顔で見つめている。
美琴は動揺して目を逸らした。


「俺、美琴が好きだよ」
そういうと、コウさんは美琴を抱き寄せた。

「コ、コウさん!」
驚く美琴を抱きしめたまま、
「だめ?」
と尋ねてくる。

美琴は自分の心臓の音がどきどきしているのが分かった。

そして抱きしめるコウさんの腕に手を添え、落ち着けと思いながら話し始めた。


「コウさん・・・コウさんかっこいいから・・・私じゃなくてもコウさんと付き合いたいっていう子、たくさんいるでしょ」
「うん。いる」
「いるんかい!」

抱きしめられている胸を叩いた。
しっとりとしたムードがぶっ飛んでしまった。

「ははっ」
コウさんの笑い声を聞いて、冗談だったのかとイラっとした。

「もう!適当に口説こうとしてるの?緊張して損した」
離してという意味を込めて、肩のあたりをトントンと叩く。

コウさんは抱きしめる腕に再び力を込めた。
そして

「でもこうやって抱きしめたいと思うのも、一緒にいたいって思うのも美琴だけだよ」
と囁いた。

「・・・」
何も言えなくなる。

「俺のこと嫌い?」
「・・・嫌い・・・・・・・ではない」

「おい!その長い間、やめろよ。焦るだろ」  
抱きしめられながら「おりゃっ」と体を左右に振られる。 
その勢いにつられて、反射的にコウさんの背中に手をまわしてしがみつく。
「うわっ!危ないっ!きゃあ!あははは!ごめんごめん」

「反省した?」
「したした」

「俺と付き合う?」
「いや。それは無理」

「即答」
「すみません」

コウさんは頭をよしよしと撫でて、体を離した。
コウさんと目が合う。
その優しい瞳にドキッと心臓が強く打つのを感じた。

慌てて、目を逸らしてテーブルに並んだ朝食を見る。



「ねえ、さっきからいい匂いがする。お腹すいちゃった。さっき作ってたのって卵焼き?」
「明太子オムレツ」

「おいしそ~」
「おいしいよ。コーヒーと牛乳、どっちがいい?」

「カフェオレ!」
「ふふっ。了解」
立ち上がって二人でキッチンにコーヒーを取りに行った。


コウさんの作った朝食はどれもおいしくて、食べている間、ずっと楽しかった。

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