「会いたい」でいっぱいになったなら
二人で並んでお皿を洗っていると

「美琴、今日なんか予定ある?」
「え?」

「どこか買い物でも行かない?
「あ。ごめん。今日予定がある」

コウさんはじ―――――っと私を見つめた。
しかも無言で。

「え?なに?」

「それは遠回しのお断り?それとも本当に用事がある?」
「なにそれ!?」
「大人な断り方をされているのかなあと思いまして」

「今日、フットサルの予約入れてるのよ」
「フットサルの予約?」

「うん。いろんなフットサル施設がいろんなイベントを開催してるのよ。チームに入ってなくても個人で予約できるの」
「へー」

お皿を拭いて片付けた後、スマホで予約の方法を教える。

「これが、今日参加する『みんなで楽しくフットサル講座』で、ここで予約情報が出てきて・・・」
説明しながら、コウさんの頭と私のおでこがすぐ近くにあるのを感じた。
ひとつのスマホを覗き込んでいるから距離が近くなっていたのだ。

ちらっとコウさんを見ると、コウさんはまっすぐにスマホを見ていて、その横顔がきれいだなと思ってどきりとしてしまった。

ドキッとしたことに気付いたのか、黙ってしまったことを不審に思ったのか、コウさんが私に顔を向ける。

・・・目が、合う。・・・・

「それ!」

突然、コウさんが大きな声を出した。

びくっとして、
「何?」と問う。

「やばい。それ、キスするタイミングだった!」
「してないじゃん!」
コウさんは自分の口元を片手で覆った。

「俺が我慢したの!」
「何それ?」

「美琴にキスするの我慢したんだよ」
「もう!無駄にドキドキするから言うのやめて」

「意識してくれたってこと?」」
「もう!ちょっとめんどくさい」
「面倒とか言うのやめろ」

ぎゃいのぎゃいの言いつつ、コウさんも私が予約した「みんなで楽しくフットサル講座」に当日予約を入れるのだった。
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