「会いたい」でいっぱいになったなら
どのくらいたったのだろうか。
涙も止まり、体の震えも収まった。


コウさんはそっと体を離した。
少し小首をかしげ、私の顔覗き込んだ。
目が合う。
コウさんはふっと、優しく笑い、
「出る?」と問うた。

私は頷き、そのままうつむいた。
こんなところで泣いてしまうなんて。
コウさんに申し訳なくなってしまうが、どうしても溢れ切ったこの感情を抑えることはできなくなっていた。


涙と鼻水でぐじゃぐじゃの顔を少しでもどうにかしようと、トイレに立った。

鏡を見て呆然となる。

フットサル終わりしたファンデーションはよれている。
アイメイクはパンダ化し、口紅はゆがんでいる。
頬には涙の跡。
鼻水の跡もばっちり。
現状回復は完全に無理。

ポーチからメイク落としシートを出し、ざっくりとメイクを落とし、顔を洗った。
まだノーメイクの方がマシだろう。
流石に眉と口紅は書いた。


席に戻ると、コウさんは私の手を取った。

手を繋ぎ、店から出る。

「お会計は?」
「もう済ませたよ」

「ごめんなさい。いくらだった?」
「大丈夫だよ」

「でも」
「今日は黙って奢られなさい」

「うん・・・。ありがとう・・・。ごちそうさまでした」
うんと頷き、コウさんはぎゅっと私の手を握りなおした。



< 32 / 63 >

この作品をシェア

pagetop