「会いたい」でいっぱいになったなら
私達はゆっくり歩いた。

酔いと泣いてしまったせいで火照っている頭や赤に夜風が当たる。
その涼しさに、少し上を向き目を閉じた。

「気持ちいい・・・」
とつぶやいた。

コウさんが「?」と、私を見たから
「風、気持ちよくない?」
と言って少し上を見た。

コウさんは私と同じように少し上を向き目を閉じた。

「あ。本当だ」

風に舞い上がる髪を押さえながら、手を繋いだまま歩き始める。


「いきなり泣いちゃってごめんなさい。驚いたよね」

コウさんから目を逸らして謝った。何となく、目を合わせ難い。


「あ・・・まあ・・・少し。落ち着いた?」
「うん。あれだけ泣いたら」

「喉、乾いたんじゃない?コンビニ寄る?」
「うーん。この顔じゃ恥ずかしくて入れないよ」

「?すっぴんもかわいいよ?」
「うわっ!」
「何、うわって?」
とくすくす笑う。

「イケメンのたらし発言」
「ジュース奢ってやろうと思ってたけど、やめた」

「えー!ごめん!飲みたい!」
「どうしよっかなー」

「イケメンのコウさん!
炭酸のオレンジジュースが飲みたいのですが、明るいコンビニに入るのが恥ずかしいので買ってきてください!」
「うむ。
イケメンだから買ってあげよう」

「ありがと!イケメン!ナイスイケメン!」

「でも、かわいい子が外にいるのは危ないので、本のとこで下向いて待っていてください」

窓辺の雑誌売り場に手を引いて連れていかれる。


少しして、
「お待たせ」と大量の購入品を買い物袋に入れて近づいてきた。

「何、買ったの?すごい量・・・」

袋を持ち上げて中を見せてくれる。中はジュースだけじゃなく、お惣菜やお菓子、お酒などいろいろ買っていた。

袋の中を見た時、コウさんのTシャツが目に入った。

ボートネックのTシャツがぐちゃぐちゃに汚れていた。

黒に茶色にベージュ、大量の水分。

私のメイクと涙と鼻水だ!!!

「こ。コウさん。服が、どろどろ・・・」
「あ、ああ。もう家だし。大丈夫だよ」

「いやいや。大丈夫じゃないですよ。クリーニングに!クリーニング代を!」
「ふふっ」

コウさんが笑った。
そして、頭をポンポンと撫でると、
「代金の代わりにもう一杯付き合ってよ」
「?」

「もう少し飲みたい」
買い物袋を少し持ち上げた。


つまり・・・

「家のみ・・・ってこと?」

「うん」
「一応私も女子の端くれでして・・・さすがに夜分に男性のおたくというのは・・・」
しどろもどろになってしまう。

「今、美琴ちゃん弱ってるっぽいからチャンスだけどさ」
「チャンスって・・・」

「美琴ちゃんのこと大切だから、同意なしでいろいろはしません」
「いろいろ?」

「そう。いろいろ」
「・・・」

「美琴?」
「・・・いろいろ・・・してほしいって言ったら?」

「抱きつぶす」

コウさんは私の手を引き、抱きしめた。
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