「会いたい」でいっぱいになったなら
「美琴」
「ん?」

コウさんが静かに声をかけてきた。

「さっきの人が『花ちゃん』だよね」
「あ・・・うん・・・」

そうだ。コウさんは健と花ちゃんが結婚すると思ってるんだ。
私がそう伝えたし。

私と同様にコウさんも驚いているのだろう。


「今日は、帰ろうか」
「え?」

「送っていく」
「・・・うん・・・」



私の健に対する想いをコウさんは知っている。

でも、コウさんのことを好きと言ったのは嘘じゃない。
けれど、コウさんはどう思っているのだろうか。

きっと、いい気分ではないだろう。



車の中であたりさわりのない話をする。
でも、すぐに沈黙が流れる。

・・・気まずい・・・。
気まずいと思うことが嫌だな・・・。



コウさんは私のマンションの来客用スペースに駐車した。
後部座席から荷物を下ろし、私に渡す。

私はコウさんの顔を見た。

コウさんも私を見つめ返す。

「私、コウさんのこと好きよ」
「うん」

少し寂しそうに微笑まれた。

コウさんは私の顔を見たまま頷いた。
「私が好きなのは、コウさんだよ」

コウさんの顔は寂しそうなまま。

どうしてそんな顔するの?
両想いになったのにそんな顔するの?
私は健じゃなくてコウさんのことが好きなのに。

< 42 / 63 >

この作品をシェア

pagetop