「会いたい」でいっぱいになったなら
「きれいだな」

ベランダから外を見ると、夕焼けがとても綺麗だった。


綺麗なオレンジ色の夕焼けを見ると、あの子を思い出す。




彼女を見たのは引っ越してきて間もない頃だから、焼く1年前。



俺は運動不足解消のため、通勤電車から見えたこの河川敷を時間があれば走るようになった。

あの日もいつものように走っていた。

夕焼けのオレンジが水面に反射してキラキラとまぶしかった。
そのあまりのまぶしさに目を細めた時、視界の片隅に動くものを見つけた。

「何だろう?」
ときょろきょろとそ知らの方へ眼をやると、ベランダで踊っている女影を見つけた。

「え?」
彼女は踊っているというより、頭を左右に振りながらノリノリでベランダをうろうろしている。

(こわっ)
と思いながらもその様子から目が離せない。


しばらく見ているとどうやら洗濯物をたたみながら踊っているように見えた。

頭のてっぺんにちょこんと真ん丸にお団子にされた髪が揺れる。
ちょこちょこと動くお団子と動きがコミカルでかわいくてついじっと見つめてしまう。

リズムよく体を揺らす。時たま手を動かすさまは何かの歌の振り付けなのだろうか?


しばらく踊っていた彼女は、くるっと一周回ってピタッと止まった。
そしてこちらの方をに顔を向けた。

そして、彼女は慌てて隠れるかのように室内に入っていった。

見ているのがばれたのだろうか?
別に覗いていたわけではない。
あっけに取られてみていたのだ。

自分で自分自身に言い訳をしたところで、そのバツの悪さに目を逸らそうとした時・・・。

彼女は再びベランダに出てきた。

ベランダの縁に手をのせじっとこちらを見ている。


目が合っている?

彼女は勢いよくぐびっと何かを飲んだ。

ビール・・・?


ああ。目が合ったわけでも、俺に気付いたわけでもないと悟る。
きっと俺の後ろにあるきれいな夕焼けと水面を見ているのだろう。


本当にそのオレンジ色は見とれるほどに美しかった。

俺もしばらくその景色を眺めていた。




あれから1年。
すっかり忘れていたあの女の子の部屋が、美琴と同じだったことに驚いた。



今、美琴もこの綺麗な夕焼けを見ているだろうか?

二人で一緒に夕焼けを見たかった。
否、これから先、きっとずっと一緒に見ることができるはずだ。

美琴。
俺を選んでくれ。


俺は夕日が沈み、暗くなるまでじっと外を眺めていた。







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