「会いたい」でいっぱいになったなら
私はベランダに椅子を置いて、座ったまま麦茶を飲んだ。

階段の上の高台にある私のマンションからは、流れる川越しに綺麗な夕焼けが見える。
オレンジの光が水面にきらきらと輝いている。

私はこの景色がすごく好きだった。
落ち着きたいと思って眺めているこの景色。

でも今は全くそんな気持ちにはなれない。

コウさんは『もう一度考えて』と言った。

考えた結果、私がコウさんではなく、健を選んだとしたら、彼はどうするのか?

それとも選ばれる自信があるのか?



健が結婚すると思ってショックだった。

そんな時、コウさんと一緒にいた。

コウさんは言葉で私を励ましたりなんてしなかった。

私と一緒にいて、いろんなところに一緒に行って、一緒に遊んで、一緒に騒いで、一緒にご飯食べて、一緒にお酒を飲んで・・・・。

ずっと一緒にいたら、気が付いたら、コウさんでいっぱいになってた。

大好きになってた。

コウさんのことが好きだと思ったから、「好きだ」と告白もした。

それが両想いになってたった半日でこんなことになるなんて。



「はあ」

溜息をついて、室内に戻る。
冷蔵庫から良く冷えた缶ビールを出してきて、ベランダに戻る。



健とはもう一か月近く会っていない。
仕事では会うし、話すけど、プライベートで会うことはなかった。

まあ、最初は避けてたんだけど・・・。
今は避けているわけでもなく、会社の外で会おうとしなかれば会わないものなのだなと思った。
ここのところ健の仕事が忙しかったというのもあるのだけど、会わなくても寂しいとかそんなこと感じることもなくなっていた。


前は少しでも会いたいって思ってたのに・・・。



てかさ、健は花ちゃんと付き合ってたんじゃないの?

花ちゃんの結婚の知らせを友人に聞いて少しした頃、私、健にお祝いを言ったはずだ。


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