先生と生徒の関係は卒業まで
■第3章 醜い感情はすべてを破壊する
「加藤先生! 田中さんはイヤがっています。つきまとうのはやめなさい!」
私は加藤先生に会うなり、すごい剣幕でそう言った。いつもの私とは違う雰囲気に、加藤先生は腰を抜かしている。
私の後ろにいる田中さんも、少しおどおどしているようだ。
「いや……私は……」
「言い訳はいい。ほらスマホを出して。あなた教師のくせに、生徒の隠し撮りをしていたんですよね。それも今すぐこの場で削除しなさい!」
「……はい」
こんなにはっきりとモノを言う自分に驚きながらも、僕は勢いに乗って加藤先生のスマホから田中さんの画像をすべて消させた。
「金輪際、田中さんには余計な接触をしないでください。もししたら、僕がどんな行動に出るかわかりませんから」
「……はい」
人気者でもある加藤先生は、がっくりと肩を落としうなだれた。
「田中さん、ネックレスを」
「う、うん」
田中さんは自分でネックレスを外すと、うなだれている加藤先生の横に置いた。
「じゃあ行くよ」
「うん」
僕はそのまま、田中さんを家の前まで送った。
「あの……宇佐先生、ありがとう」
「いや、いいんだ。初めからこうしておけばよかったね。そしたら君が、僕と一緒にいることもなかったんだから」
「え……もう、宇佐先生の傍にいちゃダメなの?」
田中さんは寂しそうな表情をする。
「そりゃそうだよ。だって加藤先生はもう田中さんに付きまとうことはない。だったら、僕と関わる必要もないだろ」
「……宇佐先生、怒ってるの?」
「怒ってる? 僕はいつもの通りだよ。とにかく、もう僕には関わらないように」
僕はそう言って、田中さんに背を向けて歩き出した。
そして、さらに一週間がすぎた。
今日は田中さんの登校日だ。そして、卒業まであと1週間。
僕があんな風に強く言ったからか、田中さんはもう僕に話しかけてこなかった。
前は廊下を歩いているだけで、教室から田中さんが飛び出してきて、僕に話しかけてくれていたのに。
あの2週間は、幻だったと思った方が良いのかもしれない。
幻……幻にしてしまわないと僕は――
「あはは、もう菊池君ってば~」
田中さんの笑い声が聞こえ、僕は反射的に声がした方を見る。
すると教室の中で、田中さんが男子生徒と楽しそうに話をしていた。それを見た瞬間、僕の胸が苦しくなる。
「……」
僕は速足でその場を立ち去り、トイレの個室に入った。
「はぁはぁはぁ……」
胸をギュッと抑え、深呼吸をした。
「僕はやっぱり……」
何となくわかっていたけど、僕は田中由美に恋をしている。
あの短いたった2週間の間に。
僕を脅してきた田中さん。
僕をリードしてくれる田中さん。
でも、どこか抜けていて、放っておけない田中さん。
田中さんの色んな表情が頭の中をかすめる。
だが、さっきの男子生徒と楽しそうに話をする姿を見て、僕は逃げた。
いや、逃げる以外に、僕に出来ることはあるだろうか。
そもそも田中さんは僕のことを好きなわけじゃない。
加藤先生から守ってほしくって、たまたまそばにいた僕に声をかけただけなのだから。
僕が勝手に勘違いして、期待して、恋をして、嫉妬をして、一人でグルグルしているだけだ。
幸い彼女は、あと一週間で、この学校を卒業する。
卒業をしてしまえば、いくら僕だって時間はかかっても彼女のことを忘れることができるだろう。
僕はスマホを取り出すと、彼女の連絡先やデータをすべて消した。
「加藤先生! 田中さんはイヤがっています。つきまとうのはやめなさい!」
私は加藤先生に会うなり、すごい剣幕でそう言った。いつもの私とは違う雰囲気に、加藤先生は腰を抜かしている。
私の後ろにいる田中さんも、少しおどおどしているようだ。
「いや……私は……」
「言い訳はいい。ほらスマホを出して。あなた教師のくせに、生徒の隠し撮りをしていたんですよね。それも今すぐこの場で削除しなさい!」
「……はい」
こんなにはっきりとモノを言う自分に驚きながらも、僕は勢いに乗って加藤先生のスマホから田中さんの画像をすべて消させた。
「金輪際、田中さんには余計な接触をしないでください。もししたら、僕がどんな行動に出るかわかりませんから」
「……はい」
人気者でもある加藤先生は、がっくりと肩を落としうなだれた。
「田中さん、ネックレスを」
「う、うん」
田中さんは自分でネックレスを外すと、うなだれている加藤先生の横に置いた。
「じゃあ行くよ」
「うん」
僕はそのまま、田中さんを家の前まで送った。
「あの……宇佐先生、ありがとう」
「いや、いいんだ。初めからこうしておけばよかったね。そしたら君が、僕と一緒にいることもなかったんだから」
「え……もう、宇佐先生の傍にいちゃダメなの?」
田中さんは寂しそうな表情をする。
「そりゃそうだよ。だって加藤先生はもう田中さんに付きまとうことはない。だったら、僕と関わる必要もないだろ」
「……宇佐先生、怒ってるの?」
「怒ってる? 僕はいつもの通りだよ。とにかく、もう僕には関わらないように」
僕はそう言って、田中さんに背を向けて歩き出した。
そして、さらに一週間がすぎた。
今日は田中さんの登校日だ。そして、卒業まであと1週間。
僕があんな風に強く言ったからか、田中さんはもう僕に話しかけてこなかった。
前は廊下を歩いているだけで、教室から田中さんが飛び出してきて、僕に話しかけてくれていたのに。
あの2週間は、幻だったと思った方が良いのかもしれない。
幻……幻にしてしまわないと僕は――
「あはは、もう菊池君ってば~」
田中さんの笑い声が聞こえ、僕は反射的に声がした方を見る。
すると教室の中で、田中さんが男子生徒と楽しそうに話をしていた。それを見た瞬間、僕の胸が苦しくなる。
「……」
僕は速足でその場を立ち去り、トイレの個室に入った。
「はぁはぁはぁ……」
胸をギュッと抑え、深呼吸をした。
「僕はやっぱり……」
何となくわかっていたけど、僕は田中由美に恋をしている。
あの短いたった2週間の間に。
僕を脅してきた田中さん。
僕をリードしてくれる田中さん。
でも、どこか抜けていて、放っておけない田中さん。
田中さんの色んな表情が頭の中をかすめる。
だが、さっきの男子生徒と楽しそうに話をする姿を見て、僕は逃げた。
いや、逃げる以外に、僕に出来ることはあるだろうか。
そもそも田中さんは僕のことを好きなわけじゃない。
加藤先生から守ってほしくって、たまたまそばにいた僕に声をかけただけなのだから。
僕が勝手に勘違いして、期待して、恋をして、嫉妬をして、一人でグルグルしているだけだ。
幸い彼女は、あと一週間で、この学校を卒業する。
卒業をしてしまえば、いくら僕だって時間はかかっても彼女のことを忘れることができるだろう。
僕はスマホを取り出すと、彼女の連絡先やデータをすべて消した。