競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。


どくん、どくん、と全身が心臓になったかのように脈打つ。背中から熱が広がっていく。

たくましい腕のなか……懐かしい、あたたかい太陽と草の薫りがする。

それだけで、現れたのが誰かを瞬時に察してしまった。

「遅れてごめん……さくら。もう、帰ろうか?」

低い、囁くような。でもよく通る声が鼓膜を震わせる。ぽっ、と体温が急に上がった気がした。

「あ……あんたは誰だ!さくらになんの権利があって……」

伊東さんがぎゃんぎゃん吠えるけど、私を抱きしめた人はフッ、と笑う。するとさらにヒートアップした伊東さんは、「な、何がおかしい…!」と激昂した。

「いや、人間でも馬でも、弱いやつほどよく鳴くよな……って思って」
「な……な……なにぃ!?」

やっぱり!この皮肉が効いたしゃべり方……子どもの頃にも聞いた。

私を片手に抱きしめ直した彼は深めに被っていた帽子を脱ぐと、クセのある焦げ茶色の髪がサラリと揺れる。

「オレは、桜宮 翔馬(さくらみや・しょうま)だ。さくらはもうオレの恋人……彼女に変な言いがかりをつけるのはやめてくれないか?」

そうさくらくんが名乗った瞬間、周りから高めの悲鳴が上がった。

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