競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。


「おお、そうでございましたか」
「はい。周りの人からも祝福の言葉を頂いてました…ですよね?」

さくらくんがにっこり笑った先は、伊東さんで。彼の有無を言わせない迫力ある笑顔に、青くなった伊東さんはコクコクと壊れた人形のように首をたてに振った。

「桜宮騎手。今は大変そうですが、私は応援してますから!」
「はい、ありがとうございます」

課長の励ましに、さくらくんも今度は人懐っこくあたたかい笑顔を浮かべる。
私の好きな笑顔の一つだ。


「オレは今はなかなか勝てませんが、アケボノソウは必ず勝たせますから」
「アケボノソウの母のサクラソウは、私が初めて一口馬主をやった時の出資馬でした」
「……そうでしたか」

課長から初めて聞く話に、私も驚いた。まさか、課長もアケボノソウに縁があったなんて。

一口馬主ってのは由良先輩から聞いたことがある。通常馬主ってのは、個人でやると大変なお金がかかるから、口数として分割して出資する人を募集するんだって。普通の馬主より敷居が低いから、収入がある程度あれば可能らしい。

「なら、お約束します。アケボノソウは必ずG1で勝たせますから」
「期待、してますよ」

課長のほっとしたような顔を確かめた後に、さくらくんはその場を離れ、私をタクシーに押し込んだ。


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