競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。


「送れなくてごめん……」
「ううん、ここまででいいよ」

最寄り駅まで送ってくれたさくらくんは申し訳無さそうにしてたけど、明日は騎乗があるから夜9時までには競馬場の調整ルーム(騎乗の公平を期すため騎手が外部と接触を断つ施設)に入らなきゃいけないんだし。ギリギリまで一緒にいてくれたんだから十分。私は笑顔を作って励ました。

「明日の騎乗、頑張ってね。由良先輩と応援に行くから」
「ありがとう。じゃあ絶対に勝たないとな!」


さくらくんがムキッと力こぶを作って見せてくれて頼もしい。

「うん、その調子!頑張れ!!」

少しだけお調子者なところも変わらないな、と私がクスクスと笑うと、さくらくんもハハッと笑う。

「じゃあ、調整ルームに入ったらスマホとか禁止だから連絡できないけど……騎乗が終わったらライムで連絡するよ」
「うん、無理しないでね」

連絡できなくなるのは寂しいけど……仕方ないよね。お仕事なんだもの。

名残惜しさを振り切るために、私から先に歩いて駅に入った。依存しすぎないように……重く思われないように。
元カレと同じ失敗はしたくない。

< 32 / 65 >

この作品をシェア

pagetop