競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。
「ちょっと待っててね」
さくらくんが他の人に呼ばれ、少しだけ場を離れる。馬を驚かせたり刺激しないために、厩舎の隅に移動して辺りを見学した。
鈴木さんは馬房の掃除のため扉を開いて中に入っていった。
(あれ?)
違う馬房から薄汚れたランニングシャツに短パン姿の、60くらいの白髪のおじさんが出てきた。わらを両手いっぱいに抱えて大変そう。
「大丈夫ですか?お手伝いしましょうか?」
私が声をかけると、黒ぶちメガネをかけたおじさんはじろじろと私を見てくる。なんだか不躾な態度にムッときたけど。我慢我慢。
「あんた、なんだ?一般人は立入禁止のはずだよ」
「あ、私は桜宮騎手のか、彼女です。今日はきちんと許可をいただいて…」
「ふん!」
唇をへの字に結んだおじさんは、眉間のシワを深く寄せて大きなため息を着いた。
「最近はブームかなにか知らんが、チャラチャラと競馬を見に来るやつも増えた。ペット感覚の浮ついた気持ちで馬を見ておる」
さすがにそれはムッときたから、私も反論するしかない。
「わ、私はそんなつもりはありません!小さい頃には乗馬クラブにもいました。馬についてはすこしは知ってます!」