競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。
「ふん!口ではなんとも言えるわ」
そう言ったおじさんは、わらを隅に置いて立て掛けてあった二股に別れた金属製のさすまたみたいなものを差し出す。
「ほれ!言うならこれがなにかわかるだろ。これでやってみろ」
どうせできないだろう?と馬鹿にしたような笑みを見て、頭に血が上る。
確かに、今日は買ったばかりのコットンワンピース。しかも白のロング丈。普通なら避けるだろうけど。
差し出された道具を両手で取ると、おや?とおじさんの顔が変わる。
手近な馬房に入った瞬間、もわんとボロ(馬糞)などの匂いが鼻をついて、一瞬だけウッとなった。夏だから余計に臭うけど、逆に夏休みの頃を思い出して懐かしい。こうして、よく乗馬クラブの馬房の掃除をしたっけ。
まだボロが残ったワラを見つけ、汚れた部分をその道具…馬房掃除用のフォークを使って避けると、専用のちりとりに汚れたワラを放り込む。それから、新しいワラを敷く…の繰り返し。
(馬だってお部屋がきれいな方が気持ちいいもんね)
自分の部屋を掃除するつもりで、手早く丁寧に作業をこなす。もちろん汗もかくし汚れたけど、構わない。生き物なら汚れも匂いも当たり前だ。人と同じなんだから。
いくつかの馬房を掃除したあと、おじさんを見返した。
「どうですか?」
「ふむ……服がボロで汚れたが、いいのかね?」
「構いません!生き物のお世話するなら当たり前じゃないですか」
おじさんに指摘されて改めてどれだけ汚れたか気づいたけど、意地を見せたくて虚勢を張った。自分のせいでさくらくんをバカにされたくなくて。