競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。

まだ8月だから少し動くだけで暑い。汗だくだけど、それよりおじさんが気になって。

「……ふむ」

白髪白ひげのおじさんは、打って変わって優しい顔つきになって。

「なるほど……桜宮騎手も人を見る目は確からしいな」

そんな評価をもらえて、現金だけど疲れが一気に吹っ飛んだ。

「あ、ありがとうございます。あの……あなたは厩務員さんで?」
「いやいや、ただの馬が好きなだけのじじいだよ」

ほほほ、と軽い笑い声を上げたおじさんは、はあ…とため息を着いた。

「うちのわがままな子どもも真似してほしいものだよ。その地位を存分に使うくせに、馬に関わるのは嫌だ、と好き放題に行動しおって……」
「はあ…」

子どもさんがいるのか。厩務員さんなら、たぶんトレセンで暮らしてるよね?家族にお手伝いしてもらえないってことかな。

「じゃあ、わしはこの辺で終わるか」
「は、はい。お疲れ様でした。あの…よかったらこれ」

私がプラスチック製のボトルを渡すと、「これは?」と聞かれたから、ニコッと笑って説明した。

「ハーブティーです。でも、全然クセがないですよ。疲労回復と熱中症予防にどうぞ」
「あ、ああ…ありがたくいただくよ。ありがとう」

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