競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。
「そんなキツイ香水をつけて厩舎に来ないでもらえますか?」
さくらくんがあんな冷たい声を出すのを、初めて聞いた。
でも、確かに私がいる場所まで匂ってくる……セクシーなパフューム。大人の色香があるあのひとには似合うかもだけど。こんな場所に相応しいとは思えない。
頭に来たらしい美女さんのキンキン声が響き渡る。
「な、なによ!人の趣味にケチをつけるつもり!?」
「そのような大声もやめてください。馬は繊細で臆病な生き物なんです。馬に関わるなら、必要最低限のマナーを弁えるべきでしょう」
「お、お父様に言いつけてやるから!!」
美女さんが怒り心頭で捨てゼリフを吐いて去って行ってほっとした。
(さくらくん、断ってくれた。じゃあ、やっぱりあのひととはなんともないんだ!)
「さくらちゃん、待たせてごめんね。退屈しなかった?」
「う、ううん…大丈夫。楽しく過ごせたよ」
急いで駆け寄ってきてくれたさくらくんの姿を見ると、ついつい問いかけの言葉が引っ込んでしまってた。
(そうだよ…せっかくのデートだし、わざわざ空気悪くしなくてもいい。関係者の娘さんならお付き合いでご飯くらいいくだろうし)
それが、後々後悔することになると知らずに。