競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。
「さくらっち、ほら、新潟メインの新潟2歳ステークスだよ。アケボノソウと桜宮騎手が出るんでしょ?」
「……」
日曜日。病院の歓談室のテレビでは競馬中継でメインレースが放送されてた。
入院中のお客さんの楽しみでもあるらしく、たくさんのおじいちゃんで賑わってる。
「やっぱり1番人気のアクアスターだろ!牝馬ながらあの馬体見たか?牝馬クラシック最有力だぞ」
「おれは3番人気のクロボシだな」
「アケボノソウはどうだ?最近桜宮も乗れてるだろ」
「あ〜ダメダメ!今どきプリンスリーギフト系なんて来ねえよ。だいたい16頭中15番人気…来るわけねえ」
(みんな好き勝手言ってる…でも)
アケボノソウの走りは、見たい。
私がテレビの前に座り直すと、由良先輩はほっとしたような顔をした。
「さくらっち……桜宮騎手となにかあったの?」
「……別に、なにも」
そう、わたしとさくらくんが別れた。ただ、それだけの話。
世界がひっくり返るわけじゃない。どこにでもある話。いくら私が毎晩泣いていても。
レースは1番人気アクアスターが逃げる形で始まった。2馬身…3馬身。そこにアケボノソウが追走する形でピッタリマーク。
4コーナーまで2頭がくっつき、後続を20馬身ほど突き放す。最後の勝負どころの直線に入った。ほとんど2頭のマッチレース。
「アケボノソウ、手応え抜群じゃない!いけるじゃん!」
由良先輩の言葉に、思わず体を乗り出した。
さくらくんがムチをふるい、新馬戦と同じようにアケボノソウが加速した
その瞬間。
アケボノソウが前のめりに倒れ、さくらくんの体が宙に舞った。