競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。

さくらくんの病室には、先にあの美女がいた。
ズキッと胸が痛むけど……もう気後れしない!と、キッとまっすぐ前を向いて室内に足を踏み入れた。

(あれ?あのおじさん…)

トレセンの厩舎を訪ねたときにいた、ランニングシャツの白髪白ひげのおじさん。
今日はぴしっと髪を整え、ストライプのスーツを着てすごく雰囲気が違う。まるでどこかの社長さんみたいだ。
私が頭を下げると、おじさんも頷いてくれた。

「なぜ、あんな無関係な女が図々しく入ってくるのです?あなた、出なさいよ!翔馬の婚約者は私…」
「ふざけたことを言わないでください」

ぴしゃり、とさくらくんが言った。

「確かに、アケボノソウの馬主佐倉(さくら)さんとご一緒に食事はしました。あなたは娘さんとしてそれについてきただけではないですか。それだけで婚約者気取りはいい加減にしてください。今も昔も、オレが好きなのはさくらちゃんだけです」

目覚めたばかりだしケガが痛いだろうに、さくらくんはみんなの前できっぱり言い切ってくれた。

「宝石屋にいったのも、さくらちゃんにプレゼントする指輪買いにいっただけだ。あなたは他の男にプレゼントされた指輪を、オレからと偽って見せびらかしてましたよね?」

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