極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「友人なんですが、妊娠していて腹痛を訴えているんです。まだどこにも受診していないんです」と言うと少し呆れたような反応をされた。

「すみません、おそらく産科の受診自体が初めてだと思うので、できれば女性の医師の診察をお願いしたくて・・・」
「ふーん」
なんだか意味ありげに、電話の向こうの声が止まった。

各科の部長なんてやたら忙しいのはわかっている。よっぽど事情のある患者しか診ないのだろうと想像もつく。
それでも、できれば一番信頼できる人に診察をお願いしたい。

「無理なら他の先生でもいいんですが」
さすがに無理強いはできないと最後に付け加えた。

「いいわよ、太郎君の頼みだもの。病棟には連絡しておくから、準備出来たら知らせてくれる?」
「はい、ありがとうございます」

よかった、この人が見てくれれば安心だ。

「ところで、まさか赤ちゃんのお父さんが太郎君なんてことはないわよね?」
「えっ」

うわ、最後に大きな爆弾を落とされたか。
油断していた。

「別に詮索するつもりは無いのよ。気になっただけ」

そんなこと言いながら、興味津々のくせに。
気を付けないと父さんに告げ口されそうだ。

「友人です。妊娠していること自体、僕も今日聞いたばかりでして」
これは嘘じゃない。

「あらそうなの」
なんだか残念そう。

「とにかくお願いします。準備出来たら連絡しますので」
「はいはーい」

楽しそうに電話を切る産科部長に少しだけ不安を感じながら、俺は診察室へと向かった。
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