極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
バンッ。

ドタドタ。

「美貴さんっ」

待合の戸が開く音と、慌ただしい足音の後、駆け込んできて私の名前を呼んだのは太郎さんだった。

受診したことを隠しきれるなんて思ってもいない。
後で話そうと思ていたけれど、

「何で連絡しないの?」
「それは・・・」
太郎さんも仕事で忙しいと思ったから。

「あれだけ無理するんじゃないって言ったのに」
「だって・・・」
無理するつもりは無かった。

「大丈夫?」
「うん。もう落ち着いたから」

親になる自覚がなさ過ぎたんだと言われれば言い訳なんてできないけれど、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。

はあぁー。
と大きく息を吐き、額の汗をぬぐった太郎さんは、
「よかった、怖かった」
つぶやきながら、白衣のまま私を抱きしめた。

「お願いだから、何かあったら俺に知らせて。じゃないと、生きた心地がしない」
「ごめんなさい」

救急外来の待合で白衣のドクターに抱きしめられる私は、当然周囲の注目を浴びた。
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