極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「先生、ありがとうございました」
診察室の中から聞こえてきた少し沈んだ女性の声。

「大きな発作になる前に処置できてよかった。小さい子は自分の思いを言葉にしないからね、よく観察してあげてください」
「はい」

会話の端々から救急で診察に当たった女医さんが対応に困り専門医を呼んだんだとわかった。
男性医師も決して女医さんを責めてはいないけれど、もっとよく観察するべきだったと苦言を呈している。

厳しい世界だな。
それが正直な感想。
医者の仕事も、ランチを運ぶ私の仕事も、仕事に変わりはないと思う。
医者だから偉いと言うつもりも金持ちだからうらやましいと言うつもりもないけれど、責任の重い仕事であることは確かだろう。
やはり、私とは住む世界が違う人なんだ。
この瞬間、悩んでいた疑問に答えが出た。


「すみません、お待たせしました」
お財布を持って戻ってきた若い男性医師。

「ありがとうございました。またお願いします」
営業スマイルでランチを渡し、私は大学病院を後にした。
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