極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「こんにちは、原田未海ちゃんですね」
診察室には白衣の男性が座っていた。

チラッとパソコンの画面を見た後こちらに顔を向けた医師が、

「あっ」
小さな声を上げた。

「えっ」
私も反応した。

嘘。どうして・・・

そこにいたのは、太郎さん。
白衣を着て、首から下げた名札にはかわいい熊さんとウサギさんが付いている。
穏やかそうに微笑みをたたえた見るからに小児科医。
一瞬他人の空似なんじゃないだろうかと思ってしまうほど、優しい表情。
でも、まっすぐに私を見ているってことはきっと太郎さんなんだろう。

「診察をしましょうか」
私から視線を外し、未海ちゃんを見る小児科医の太郎さん。

聴診器を当てたり触診をしたりして未海ちゃんの診察をする様子を、私は大地君を抱いたまま見ていた。

未海ちゃんの発熱で気が動転している泉美は、どうやら太郎さんには気づいていない。
もちろん太郎さんは気づいているんだろうけれど、今は仕事に徹している。

「じゃあ、レントゲンと血液検査をしておきましょう」
「はい」
「未海ちゃんちょっとだけチクンとするけれど、頑張ろうね」

きっとまだ言ってもわからないだろう未海ちゃんの頭をなでて語り掛ける太郎さんを見て、私は胸が苦しくなるのを感じた。
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