極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「それでは、こちらへお願いします」
診察についていた看護師さんが、泉美を案内して診察室の奥にある処置室へと入って行く。

私も大地君を抱いて待合へ戻ろうとした。その時、

「この子は元気かな?」
目の前に太郎さんが立った。

「ええ、大丈夫です」
未海ちゃんと一緒にいたから私も心配したけれど、今のところ大地君に変わった様子はない。

「君は?」
「え?」
「少し疲れた顔をしている」
「そんなこと」
ないとは言い切れない。

最近食欲もないし、寝つきも悪い。
でもそれは、店の経営難と駿と太郎さんのことが気がかりだから。

「ほんとに困った人だな、美貴さんは」

クシュッと頭をなでられ、耳まで赤くなった。

「やめてください」
まるで子供にするようにされたら恥ずかしすぎる。

「いいんだ、お仕置だから」
「え?」
「また会おうって約束」
「ああ」
「何度も連絡したのに」
「ごめんな・・さい」

何で、私は謝っているんだろう。
太郎さんと連絡を絶つのは自分の意志。
考えて考えて出した答え。
それなのに・・・

「一人で勝手に逃げるのはダメだよ」
「でも・・・」

忙しい太郎さんに、生涯独身希望の私はふさわしくない。
妥協点なんて見つけられるはずがない。

トントン。
「失礼します。患者さんのお父さんがみえましたが・・・」
入ってきた看護師さんが怪訝な顔で私と太郎さんを見た。
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