極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「では心配ないんですね?」
「ええ。突然の発熱で心配されたようですが、今のところ悪い所見はありません」
「そうですか、よかった」
太郎さんの説明を聞き、心底安堵したように息をつく泉美の旦那さん。

2時間は仕事が抜けられないと言っていた旦那さんは、思いのほか早くやって来た。
でも、着ているものや髪の乱れからは相当慌てていたんだろうと想像できる。
きっと未海ちゃんのことが心配で無理して駆けつけたんだろうな。

「美貴さんもありがとう。泉美も心細かっただろうから本当に助かったよ」
「いいえ。私は何も」

ブブブ ブブブ。
その時、ちょうど旦那さんの携帯が鳴った。

「ああ、すみません」

さすがに診察室の中ではマズイと気づいたのか、電源を切ろうとする旦那さん。

「あの、待合であれば通話されてもかまいませんので」
きっと仕事の電話だろうと太郎さんが勧めてくれたのに、
「いえ、私用ですから」
やはり旦那さんは電話を切った。

そして旦那さんが電話を切る瞬間、私にも『AOI』と言う文字が目に入った。
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