極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「美貴さんの意外な一面だね」
クククと、おかしそうに笑う太郎さん。

「やめてください」

みっともないところを見せた自覚がある。
一番見せたくないところを太郎さんに見られてしまって、今すぐここから消えてしまいたい。

「いいじゃない。僕は今日の美貴さんも好きだよ」
「嘘」
仕事場で感情を出して怒る姿なんて幻滅するに決まっている。

「嘘じゃない。かわいいと思う」
「もう、やめてっ」
とうとうキレてしまった。

太郎さんの前では素敵な女性でいたいし、いい思い出のまま記憶に残りたいのに。
もう最悪。

「ねえ美貴さん、僕は強がっている君も怒っている君も好きだよ。できれば笑っていてほしいと思うけれど、そうじゃない部分の美貴さんも一部でしょ?」
「そんなきれいごと」
「いいじゃないか、きれいごと。少なくとも僕は、どんな美貴さんでも好きだ」

私みたいな可愛げのない女に「好きだ」「かわいい」を連呼してくれる太郎さん。
きっと私も太郎さんが好きだ。
でも、言えない。
いつも強気でかわいくないことばかり言っているくせに肝心なところで意気地なしの私は、太郎さんに裏切られ捨てられるのが怖くて戦うことなく逃げ出す小心者。

「さあ、僕も行かないと」
2杯目のコーヒーを空け、席を立つ太郎さん。

「来週末待っているからね」
「はい」

なぜだろう、不思議なことにこの時私は悪阻を忘れていた。
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