極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「え、ここ?」

タクシーを降りてからそこが太郎さんの勤める大学病院だと知る。
今更「別の病院に」なんて言える状況でないのはわかっているけれど、さすがにここはマズイ。

「ねえ泉美、」
私を抱えながら歩く泉美に声をかけるけれど、
「ここが一番近かったのよ」
ピシャリと言われれば、抵抗もできない。


「受付してくるから、座ってなさい」
「うん」

先日未海ちゃんを受診させたから病院の勝手がわかっている泉美は、私の保険証を出し問診を書いて受付をすすめてくれる。

時々遠くの方から
「妊婦さんですよね?かかりつけの病院はありませんか?」
「母子手帳も一緒にお願いします」
受付スタッフの声がする。

ごめんね泉美。
受診歴のない駆け込みの妊婦なんて、大学病院みたいな大きなところでは一番嫌われる患者だって聞いたことがある。
きっとイヤな顔されたんだろうな、申し訳ない。


「少し時間がかかるけれど、呼んでくれるらしいわ」

受付を済ませて戻ってきた泉美は、私の隣に座って握りしめた私のこぶしに手を重ねてくれた。

「大丈夫だからね」
「うん、ありがとう」

自分のことなら多少辛くても痛くても平気なのに、赤ちゃんが苦しんでいると思うと心が痛い。
お願い私はいいからこの子を守ってと、普段神頼みなんてしない私が必死に祈っていた。
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