極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
『田上さん、田上美貴さん、診察室にお入りください』
20分ほど待ってやっと呼ばれた。


「えっと、妊婦さんで、受診はされていないんですね?」
「はい」

診察室にいた若い男性医師が、冷たい目で私を見ている。
きっと迷惑な患者だとでも思われているんだろうな。

「で、今日は荷物を持ち上げようとして腹部に痛みがあったと」
「はい」
「今も続いていますか?」
「いえ、痛みはありませんが、なんだか下腹のあたりが重たいような感じで」

自分でも違和感を感じるってだけで、気のせいと言われればそんな気もする。
受診するほどの事でもないのかもしれないけれど・・・

「わかりました、一応婦人科の先生に診てもらいましょうか?」
「はい」

そういえば、目の前の医師は救命科の名札を付けている。
ってことは、今から婦人科の先生を呼ぶってことらしい。
どうやらまだまだ時間がかかりそうだなと肩を落としたその時、

トントン。
入口とは反対の、処置室へと続く奥の扉がノックされた。
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