迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。
第十章
本能での拒絶(一)
「ただいまー」
ガラガラと音をたてる玄関の扉を開けても、私の言葉に反応する人は誰もいない。
まだ昼間だというのに、家の中は薄暗くただ静まり返っていた。
玄関の扉に手をかけたまま、私は動けないでいる。
いつの頃からだろうか、家の中に入るこの一瞬を戸惑うようになってしまったのは。
あるのは息苦しさと、入ってはいけないものの中に入るようなぞわぞわしたこの感じ。
「……」
自分の家なのに、全身が入ることを拒否している。
そんな感じだ。
道祖神に、本能で嫌なものは分かるようになっているという言葉が耳から離れない。
「ただいま」
唾をのみ込み、自分自身にその言葉を言い聞かせてから中に入った。
玄関からひんやりとした風が抜けていく。
縁側では、風鈴が涼やかな音を立てていた。
ゆっくりと廊下を抜けて、ひとまず台所を目指す。
「本家から帰ってきたんかね」
「うん」
奥の暗闇からすっと現れた祖母に驚きつつも、私は祖母の顔を確認した。
祖母が人であることは間違いない。
だとしたら、この違和感はどこから来るのだろうか。
この家なのか、それとも別のなにかなのか……。
「おばあちゃん、お父さんはまたどこか出かけたの?」
「さあね、さっきどこかに出かけたようだけど。おそらく本家じゃないかねぇ」