迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。
動かない自転車(四)
「ちょっとぉ」
目の前の信号が赤に変わっても、自転車は全く動かない。
車輪がどこかに挟まるような溝もない。
いくら日中の車が少ないとはいえ、このままでは事故になるのも時間の問題だった。
このまま自転車だけを捨ててしまえば、自分だけは助かる。
そんなことが一瞬頭をよぎるも、それをしたところで事故は防げないのは分かっている。
「なんで動かないの。やだぁ、お願いだから動いてよ!」
「なにしてんだ、ばーか。事故になるぞ」
声を聞けば、顔を見なくてもそれが誰なのかすぐに分かった。
汗と涙でぐちゃぐちゃの顔を見られないように、下を向く。
彼は私の手の上に自分の手を添えた。
すると先ほどまで石のように動かなかった自転車がゆっくりと進み始める。
歩道を渡り切ると、道の端に自転車を止めた。
そして私はそのまま彼に抱き着く。
「シン、シン……こわかっ…………たの。こわかったの……。動かなくて、どうしていいか……わからなくて……」
シンはただ、自分の胸にしがみつく私の頭を無言でなで続けてくれた。