迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。
神隠しは怪異の始まり(三)
「動いた」
「凄いな、怒りで金縛りを解く奴なんて初めて見たぞ」
ふいに、背の高い男の人に手をつかまれる。
白い着物の様な服装のその人は、私の手を引いて走り出した。
「ちょっと、なんですか」
「いいから。捕まりたくなかったら、走るんだ。あと、振り返るなよ、絶対に」
絶対に振り返ってはいけない。
そんな怖い話は聞いたことがある。
聞いたことはあっても、なったことがある人間など、どれだけいるのだろうか。
しかし本能的に、振り返ってはいけないということだけは分かる。
私たちが走り出すと同時に、鈴の音もスピードを上げて追いかけてくる。
この路地はこんなにも長かっただろうか。
いくら走っても、ただ長い塀に囲まれた薄暗い道が続いている。
「ったく、本当にしつこいなぁ」
「すみません、後ろのあれはいったいなんなのですか?」
「ほらよく、お化けとか妖怪とか聞いたことあんだろ。そんなもんだよ。だが、あれは少したちが悪い奴で、気に入った者を神隠しで攫ってしまうのさ」
「神隠し」
祖母の言っていた、迷信がこんな形で当たってしまうなんて。
いやいや、そんなことより霊感だってないのにお化けとか妖怪とか言われても。
「冗談……ではないですよね」
「冗談なら、ずいぶんたちの悪い冗談だな。俺も真夏に全力疾走する趣味はないんだが? それか、試しに捕まってみたらどうだ」
「ちなみに捕まったらどうなるんですか」
「ま、一生帰っては来られないな」
「一生監禁とか遠慮しておきます」
「だろうな」