ある日、マンガ家が落ちていて
「はい。これ、ネットオークションに出したら、少しはお金になると思います。本当はお礼のプレゼントをしたいところなんですが、ロッカーのリュックにお財布も入れてしまっていて。すみません、こんなもので」
そう言って差し出されたスケジュール帳には、マンガの絵で可愛い女の子が描いてあった。あゆみは、息を飲んだ。
「こ、これ…『シュークリーム・ポップス』のルナちゃんじゃないですか!」
「あ、知っててくれたんですか」
男性の顔がぱあっと明るくなった。女の子の絵の下にはサインがあって笹岡ユキジ、とある。
「じゃ…あなた、漫画家の笹岡ユキジさん?!」
思わず大きな声が出てしまった。『シュークリーム・ポップス』は、小学生からOLまで幅広い読者に支持されている少女漫画で、確か発行部数、数百万部だったはずだ。少女漫画が好きなあゆみは、『シュークリーム・ポップス』の大ファンで、新刊が出たら飛びつくように買っている。ほんわかした作風だが、ほろりと泣かせるところもあり、もう27歳のあゆみでさえ、気持ちがきゅんきゅんしてしまう。
「はい。笹岡ユキジです。作品、読んでもらえてるのかな、ありがとう」
ユキジという名前から女性かと思っていた。男性だったのだ。
あゆみは瞳孔を思い切り開いた。
犯罪者扱いしなくてよかった!ギリ、セーフ!!
ほっとする間もなく、あゆみの頭に疑問がよぎる。億ションに住んでいてもおかしくない笹岡が、なんでまた野宿?しかも、居所がバレてはダメって…。
「笹岡さん、なんかピンチなんですね?」
声を潜めてあゆみは言った。笹岡はまた困った顔をして、はあ、まあ、そうです、と言った。
「笹岡さんっ!」
ずいっとあゆみは笹岡との距離を詰めた。
「よかったら、ウチに泊まりませんか?狭い2LDKですけど、弟と住んでるんです。弟も『シュークリーム・ポップス』が大好きなんですよ。笹岡さんに会えるって言ったら飛び上がって喜ぶと思うんです!」
「は、はあ」
「弟にも会わせたいし、大したお構いはできませんが、野宿よりは幾分マシじゃないかと…!」
笹岡は相変わらず困った顔をしていたが、びゅう、と吹いた早春の冷たい風に目をしばたかせて、小声で言った。
「じゃあ…お言葉に、甘えます」
そう言って差し出されたスケジュール帳には、マンガの絵で可愛い女の子が描いてあった。あゆみは、息を飲んだ。
「こ、これ…『シュークリーム・ポップス』のルナちゃんじゃないですか!」
「あ、知っててくれたんですか」
男性の顔がぱあっと明るくなった。女の子の絵の下にはサインがあって笹岡ユキジ、とある。
「じゃ…あなた、漫画家の笹岡ユキジさん?!」
思わず大きな声が出てしまった。『シュークリーム・ポップス』は、小学生からOLまで幅広い読者に支持されている少女漫画で、確か発行部数、数百万部だったはずだ。少女漫画が好きなあゆみは、『シュークリーム・ポップス』の大ファンで、新刊が出たら飛びつくように買っている。ほんわかした作風だが、ほろりと泣かせるところもあり、もう27歳のあゆみでさえ、気持ちがきゅんきゅんしてしまう。
「はい。笹岡ユキジです。作品、読んでもらえてるのかな、ありがとう」
ユキジという名前から女性かと思っていた。男性だったのだ。
あゆみは瞳孔を思い切り開いた。
犯罪者扱いしなくてよかった!ギリ、セーフ!!
ほっとする間もなく、あゆみの頭に疑問がよぎる。億ションに住んでいてもおかしくない笹岡が、なんでまた野宿?しかも、居所がバレてはダメって…。
「笹岡さん、なんかピンチなんですね?」
声を潜めてあゆみは言った。笹岡はまた困った顔をして、はあ、まあ、そうです、と言った。
「笹岡さんっ!」
ずいっとあゆみは笹岡との距離を詰めた。
「よかったら、ウチに泊まりませんか?狭い2LDKですけど、弟と住んでるんです。弟も『シュークリーム・ポップス』が大好きなんですよ。笹岡さんに会えるって言ったら飛び上がって喜ぶと思うんです!」
「は、はあ」
「弟にも会わせたいし、大したお構いはできませんが、野宿よりは幾分マシじゃないかと…!」
笹岡は相変わらず困った顔をしていたが、びゅう、と吹いた早春の冷たい風に目をしばたかせて、小声で言った。
「じゃあ…お言葉に、甘えます」