ある日、マンガ家が落ちていて
よっしゃあ!とあゆみは、心の中で、ガッツポーズをした。あゆみの脳内は、自分の持っている笹岡のコミックス、『シュークリーム・ポップス』の第一巻にサインを入れてもらうことに支配されていた。笹岡が言うようにネットオークションで売ったりする気はない。純粋なファン心理だ。あゆみは、大学生の頃、マンガ研究部の幽霊部員だった。絵を描く習慣がなかったので、絵はちっとも上達しなかった。だが、マンガを読むのは好きなので、マンガ家という人種を尊敬している。
公園の近くの駅にあるコインロッカーから、笹岡はリュックを取り出した。貴重品しか入っていないのか、中身がスカスカなのがわかる。本当にダウンジャケット一枚で野宿しようとしてたんだ、とあゆみはぞっとした。
「えっと私の名前は大杉あゆみと言います。東条デパートの正社員です」
自己紹介をした後、地下鉄に乗り、あゆみの住むアパートに向かった。
あゆみは、道すがら、どんなに『シュークリーム・ポップス』を溺愛しているかを語った。
仕事で嫌なことがあった時。なんだかもう自分が嫌になってしまような時。
くたくたに体が疲れている時。思い切り気分転換がしたい時。
そんな、負のスパイラルにいる時に、どんなに『シュークリーム・ポップス』に救われたか。
特に主人公のルナちゃんの事が大好きだった。歌手を夢見るルナちゃんは、物凄い才能を持ち主なのだが、行く先々で敵が現れ、ビッグスターへの道をはばまれる。
こんな目にあわせないで、と読者が思うようなひどい仕打ちも受けるのだが、ルナちゃんはへこんだままではなかった。ここまできて?と読者が思う瞬間、不死鳥のように立ち上がり、そして言うのだ。
「私は、歌うのが好きだから…!」
その台詞にぶわっと涙があふれる。もう何度も読み返しているのに、同じシーンで何度もヤラれる。涙をなんとか拭いて、コミックスを閉じる時には、悩んでいたことが小さく思える。
自分って小さいな。こんなことでくよくよしちゃって。
そう思うと、またイチから頑張ろうと思える。
「そんな夜が、何度もあったんです…!」
大好きなマンガの作者に、自分がもらったことに対する御礼を言う機会なんて、滅多にないことだ。こんな幸運、無駄にしたらバチが当たる。
あゆみは、なんとかして心の中にある感謝の気持ちを全て笹岡に届けるべく、言葉を紡いだ。
公園の近くの駅にあるコインロッカーから、笹岡はリュックを取り出した。貴重品しか入っていないのか、中身がスカスカなのがわかる。本当にダウンジャケット一枚で野宿しようとしてたんだ、とあゆみはぞっとした。
「えっと私の名前は大杉あゆみと言います。東条デパートの正社員です」
自己紹介をした後、地下鉄に乗り、あゆみの住むアパートに向かった。
あゆみは、道すがら、どんなに『シュークリーム・ポップス』を溺愛しているかを語った。
仕事で嫌なことがあった時。なんだかもう自分が嫌になってしまような時。
くたくたに体が疲れている時。思い切り気分転換がしたい時。
そんな、負のスパイラルにいる時に、どんなに『シュークリーム・ポップス』に救われたか。
特に主人公のルナちゃんの事が大好きだった。歌手を夢見るルナちゃんは、物凄い才能を持ち主なのだが、行く先々で敵が現れ、ビッグスターへの道をはばまれる。
こんな目にあわせないで、と読者が思うようなひどい仕打ちも受けるのだが、ルナちゃんはへこんだままではなかった。ここまできて?と読者が思う瞬間、不死鳥のように立ち上がり、そして言うのだ。
「私は、歌うのが好きだから…!」
その台詞にぶわっと涙があふれる。もう何度も読み返しているのに、同じシーンで何度もヤラれる。涙をなんとか拭いて、コミックスを閉じる時には、悩んでいたことが小さく思える。
自分って小さいな。こんなことでくよくよしちゃって。
そう思うと、またイチから頑張ろうと思える。
「そんな夜が、何度もあったんです…!」
大好きなマンガの作者に、自分がもらったことに対する御礼を言う機会なんて、滅多にないことだ。こんな幸運、無駄にしたらバチが当たる。
あゆみは、なんとかして心の中にある感謝の気持ちを全て笹岡に届けるべく、言葉を紡いだ。