ある日、マンガ家が落ちていて
「そうですか…そんなに喜んでもらえてたなら、よかったなあ」
笹岡は、他人事のように薄く笑った。
あゆみは必死になって語った分、あれっと拍子抜けした。
熱い想いが伝わらなかった?うーん、こんなこと言われ慣れてて、喜べないのかなあ…。
なんだかプレゼンに失敗してしまったような気持になる。しかし、まだ夜はこれからだ。あゆみのアパートに辿り着いた。二階の角部屋に笹岡を案内する。
「すみません、笹岡さんの部屋に比べたら、うさぎ小屋みたいな部屋だとは思うんですけど」
ドアを開け、灯りをつけて、エアコンの電源も入れる。まだ春とはいえ寒いのだ。公園
とは違う暖かさを味わってほしかった。
「あ。炬燵がある」
笹岡が初めて感情のこもった声を出した。リビングの真ん中にある炬燵。そろそろしまおうと思っていたけど、そのままにしておいてよかった!とあゆみは拳を握った。
「炬燵、お好きですか?」
「はい。僕の家にはないんです。懐かしいな、炬燵に入るのなんて、中学生以来じゃないかな。入ってもいいですか?」
どうぞ、と炬燵の電源も入れる。ダウンジャケットを脱ぎ、黒のタートルネックとデニムに姿になった笹岡は、いそいそと炬燵に入った。
「お蜜柑もありますよ」
籠に入った蜜柑を差し出す。
部屋は散らかっていなかった。弟の望は潔癖症で、綺麗好きだ。ちょっと雑な性格のあゆみはそんなに神経質にならなくても、と思うこともある。だが、今日は望の性格に感謝した。いきなり人をあがらせても大丈夫な部屋。人気マンガ家でもとりあえずは落ち着いてもらえる。
「嬉しいな。お腹すいてたんで」
「それは大変。すぐ何か作ります」
弟との二人暮らしで、料理はあゆみの担当だ。望が帰ってくることを考えると、三人分作らなくてはいけない。材料、何があったっけ?冷蔵庫を開けた瞬間、あゆみのスマホが鳴った。
望からだった。
「ちょうどよかった!あんた何時頃帰ってくんの。今、すごい人が」
「あ、姉ちゃん、俺、今日帰らないから」
「え?」
「友達が失恋しちゃってさ。一晩、一緒にゲームして慰めてやるつもり。てなわけでよろしく」
「え、ちょ、あんた、ささ」
笹岡ユキジ大先生が今、ここに居るよ!と伝えたかったのに、望は電話を切ってしまった。しかもオールでゲームをやるとなったら、望はスマホの電源を切ってしまうのだ。
ってことは…。
笹岡は、他人事のように薄く笑った。
あゆみは必死になって語った分、あれっと拍子抜けした。
熱い想いが伝わらなかった?うーん、こんなこと言われ慣れてて、喜べないのかなあ…。
なんだかプレゼンに失敗してしまったような気持になる。しかし、まだ夜はこれからだ。あゆみのアパートに辿り着いた。二階の角部屋に笹岡を案内する。
「すみません、笹岡さんの部屋に比べたら、うさぎ小屋みたいな部屋だとは思うんですけど」
ドアを開け、灯りをつけて、エアコンの電源も入れる。まだ春とはいえ寒いのだ。公園
とは違う暖かさを味わってほしかった。
「あ。炬燵がある」
笹岡が初めて感情のこもった声を出した。リビングの真ん中にある炬燵。そろそろしまおうと思っていたけど、そのままにしておいてよかった!とあゆみは拳を握った。
「炬燵、お好きですか?」
「はい。僕の家にはないんです。懐かしいな、炬燵に入るのなんて、中学生以来じゃないかな。入ってもいいですか?」
どうぞ、と炬燵の電源も入れる。ダウンジャケットを脱ぎ、黒のタートルネックとデニムに姿になった笹岡は、いそいそと炬燵に入った。
「お蜜柑もありますよ」
籠に入った蜜柑を差し出す。
部屋は散らかっていなかった。弟の望は潔癖症で、綺麗好きだ。ちょっと雑な性格のあゆみはそんなに神経質にならなくても、と思うこともある。だが、今日は望の性格に感謝した。いきなり人をあがらせても大丈夫な部屋。人気マンガ家でもとりあえずは落ち着いてもらえる。
「嬉しいな。お腹すいてたんで」
「それは大変。すぐ何か作ります」
弟との二人暮らしで、料理はあゆみの担当だ。望が帰ってくることを考えると、三人分作らなくてはいけない。材料、何があったっけ?冷蔵庫を開けた瞬間、あゆみのスマホが鳴った。
望からだった。
「ちょうどよかった!あんた何時頃帰ってくんの。今、すごい人が」
「あ、姉ちゃん、俺、今日帰らないから」
「え?」
「友達が失恋しちゃってさ。一晩、一緒にゲームして慰めてやるつもり。てなわけでよろしく」
「え、ちょ、あんた、ささ」
笹岡ユキジ大先生が今、ここに居るよ!と伝えたかったのに、望は電話を切ってしまった。しかもオールでゲームをやるとなったら、望はスマホの電源を切ってしまうのだ。
ってことは…。