淋しがりやの足跡
だってその卵焼きは、私が作ったものじゃなかったから。
卵がうまく巻けなくて、それだけは母に作ってもらったものだった。
他のおかずを食べても何も言ってくれなかったのに。
母の作った卵焼きで、プロポーズされてしまった。
本当のことを話せなくて。
私、その日泣いて帰っちゃったのよね。
……翌日。
史郎さんの病室を訪ねると。
「書いたぞ」
黄色いノートを渡された。
「見てもいい?」
わくわくする。
こんな気持ちは久しぶりだ。
史郎さんは眉をひそめて、
「ダメ。家で見てくれ」
と言った。
(何よ、照れちゃって)
若い頃の夢を見たせいか、今日は史郎さんに早く会いたかった。
……今日「は」なんて言ったら、史郎さんに怒られそう。
だけど。
いつもに増して会いたかったのよ。
史郎さんの病室には夕方近くまで居て、私は自宅へ戻った。
黄色いノートを持って。