淋しがりやの足跡
第3章
第1話
『史郎さんへ
熱が下がってホッとしました。
百花も草ちゃんもまたお見舞いに来るって言っていましたよ。
桜がそろそろ咲きそうです。
草ちゃんのA高校の入学式の日にも桜の花が残っていたらいいなと、今から思ってしまいます。
近頃は早く桜が開花しますから。
少し前、史郎さんにプロポーズされた日の夢を見たんです。
思い返せば、あれは桜の季節でした。
桜色の町が素敵で、でも私、その中を泣いて帰りました。
知っているでしょう?
あなたが誤解して、プロポーズしてくれたことが理由です。
史郎さんの誤解を解くために、後日私が作ったボロボロの卵焼きを持って会いに行った日のことを覚えていますか?
史郎さん、私の卵焼きを見て、笑ったのよ。
正直、ひどい人だと思いました。
だけど本当に嬉しそうな顔をして、卵焼きを食べてくれました。
また桜の季節がやって来ます。