淋しがりやの足跡
史郎さんといつか、またお花見に行きたいです。
その時は、我が家の朝ごはんの定番になった、私の作る卵焼きも食べてください。
時子より』
黄色い交換ノートを今日も史郎さんに渡す。
史郎さんはノートを受け取ると、その場で読むようになった。
「……懐かしいなぁ」
目を細めて、史郎さんは私を見る。
「オレ、笑ったかな?」
「笑ったわよぅ!『ボロボロですね』って言われたこと、忘れないんだから!」
「そんなこと、言ったか?」
とぼける史郎さん。
でも私にはわかった。
この顔は、全部覚えているわね。
ふたりでくすくす笑っていたけれど。
次第に史郎さんが咳こんだ。
「相変わらず苦しそうな咳よね」
背中をさすって私が言うと、史郎さんは呼吸を整えるようにゆっくり深呼吸した。
しばらくして落ち着いた様子になると、
「孫達には来なくてもいいと伝えてくれ」
と、言った。