淋しがりやの足跡
「そうよ、母さん。母さんまで倒れちゃったら、大変だもん。正代も来てくれたし、家で休んで」
娘達の言葉に史郎さんも頷く。
私はまだみんなと居たいと思ったけれど、帰り支度を始めた。
「……じゃあ、帰るわね。史郎さん、また明日来るからね」
史郎さんに声をかけて扉を開けた。
その時。
「時子」
史郎さんが、私の名前を呼んだ。
「ありがとうな」
かすれた、力のない声だったけれど。
確かに史郎さんが言った。
(今まで名前なんて滅多に呼ばなかったのに。ありがとうだって、言ってくれなかったのに。何よ、今になって……)
嬉しくて。
嬉しくて。
苦しい気持ちになった。
その日。
夜遅く。
史郎さんは、私をおいて。
この世から卒業してしまった。