4番目の彼女
「高橋さーん。今年も新井様から年賀状宛名書き千件、注文いただいたよ~」

 そう言って、やってきたのは外商営業部の林 創太郎さん。私の大学の先輩でもある。

「ありがとうございます」

「どうしたの?元気ない?」

だめだ。何か集中力が切れてる気がする。仕事。仕事頑張る。

「いや……、忙しくなってきたな、と」

「そういえば、イベント担当からちゃんと連絡あると思うけど、イベントステージでやる来年のお正月の催し、書道パフォーマンスになったらしいよ」

「わぁ! 面白そう。楽しみです」

「書道だから、高橋さんにもイベント手伝って欲しいって言ってたよ」

「はい。喜んで! よーし、気合いれて今日の仕事も張り切って終わらせます」

 がんばって少しの残業で仕事を終わらせた夜七時。このショッピングセンターで働いていてよかったと思うことの一つは、買い物に困らないということだ。まだ閉店まで2時間も買い物を楽しめる。

 雑貨店でかわいいペアカップを見かけて、思わず買ってしまった。今度徹志くんの家に行くときに持っていこう。あのヘッドボードに二つ並ぶことを想像すると、少しだけ顔がにやけた。

 浮かれた気分になった私は、夕飯は最近気に入っているデリのキッシュをテイクアウトして帰ることにしようと食料品売り場方面へと向かう。

 すると、そのすぐ先に見慣れたマンバンヘアが歩いていた。
 今日はラフなサルエルパンツにショートジャケット、片手に私がキッシュを買おうと思ってたデリの紙袋。

 そしてもう片方の腕にはオフショルダーのニットを着た華奢な腕が絡まっている。ふわりと揺れる明るいニュアンスヘアと可愛い笑顔。


 私は踵を返し、早足でその場を去った。


 だよね。だよね。私が今夜は会わないって言ったんだから、他の女に会うよね。
 そんなこと、わかりきってたのに──。
 あの派手猿野郎(てつし)のせいで、こんな風に涙があふれ出るなんて認めたくない。
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