4番目の彼女
「高橋さん、前に言ってたイベント部の書道パフォーマンスの担当の方が来てるんだけど紹介していいかな」

「もちろんです」

 現れたのは、私より年下であろう可愛い女性だった。
 明るいニュアンスウェーブの髪にオフショルダーのニット。

 ん?この服、この髪型、華奢な腕……マジか! あのとき食品売り場付近で徹志くんと腕を組んでた本命彼女(仮)だわ。

「宜しくお願いします」

 林さんの影からぺこりと頭を下げた彼女。
 どうでもいいけど、林さんと距離近くない?徹志くんとも腕を組んでたし、そういう性格の子なのかな?

(そう)ちゃん、もう大丈夫だよ」

 ん? 創ちゃん呼び? 林さんの方が年上だよね?
 私が困惑しているのを察したのか、照れた様子の林さんが内緒話をするように告げた。

「実は俺の彼女なんだ」

「そうなんですね! びっくりです 」

 なんと! じゃあ、徹志くんは? 

「会沢つかさと言います。兄がいつもお世話になってます」

そう言いながら差し出された名刺には『会沢つかさ』と確かに徹志くんと同じ苗字が記されていた。

「兄?」

「ダンススクール代表の会沢徹志です。いつも高橋さんに賞状とかの文字をお願いしてると聞いて」

「あぁ、会沢徹志く……さん。そう……こちらこそ、いつもお世話になっております」

 私も名刺を差し出し、小さく頭を下げた。つかささんは興味深げに私の名刺を手に取り見つめた。

高橋希(たかはし のぞみ)……希望の()

()でのぞみって珍しいですよね。普通、望の方ですよね」

「そうですね。でも素敵なお名前です」

 明るく会話しながらも私の頭の中は兄というワードで占められていた。徹志くんが兄。
 そうですか妹さんですか。
 そして林さんの彼女。
 なんだそうだったのか。
 徹志くんの彼女じゃなかったんだ。

 胸につかえていた何かがするんと落ちた感じがした。

もしかして徹志くんがあの時言った通り、本当に今は私だけしかいないのではないか。

 彼の言葉を素直に信じてもいいのかもしれない。
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