王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「はい、ほうじ茶。常温です」
「……おばちゃん達にすっかり把握されてるな」

 諦めたように呟くのを、晴恵は妙に可愛いと感じた。
 一口食べて胃が動きはじめたのか、むしゃむしゃと咀嚼が続く。
 晴恵もご相伴に預かる。

「……素敵な洋館ですね」

 晴恵はあらためて工房内を見渡した。
 外観は石組みだが、内観には木材を貼り付けてある。磨けば趣のある建物になりそうだ。

「素直に化け物屋敷って言っていいぞ」
「そんなことは」

 思ったけれど。

「爺様が顧客のお大尽から『靴を作ってもらったお礼』って贈られたもんらしいからな。年季が入ってる」

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