王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「ゴッソーさん」

 檜山は食べ終えると、背中を向けた。
 帰れと言われないので晴恵は見学を決め込む。
 何に使うのかわからない工具がたくさある。

 そっと覗くと 檜山はゴーグルをして、木型を削っていた。
 少し削っては距離をあけて眺め、少し削っては掌に載せてバランスをはかっているようだ。

 真剣な眼差し。
 なにかを生み出そうとする手は筋張っていて、あちこちに傷がある。
 ストイックでありながら、魅力を放散していた。
 晴恵はずっと男の作業に見入っていた。


 ひと段落ついたのだろう、彼が作業を終えて伸びをしたのは三時間後。

「お疲れさまです」

 晴恵が声をかけると檜山はギョッとして振り返った。

「アンタ、まだいたのか」
「また来ます」

 晴恵は立ち上がって頭を下げると工房を出た。

「こんなことをしたからって俺がアンタに惚れると思うなよ」

 背中に言葉を投げかけられたが晴恵は気にしなかった。
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