王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
動いた途端、どこかの王室から派遣されたSPに取り押さえられてしまわないだろうか。
それとも、不敬罪で逮捕?
晴恵はぎゅ、と胸の前で左手の拳を右手で包み込んだ。
「陽菜に、履きやすい靴をプレゼントするんだって決めたでしょ」
ツテを総動員して探しあてたのだ。
自分が片思いしている相手に、妹の陽菜が嫁ぐ日。
外反母趾で巻き爪の妹が、結婚式の長丁場を履いたままでも痛くない靴を作ってもらうのだと。
晴恵は恐る恐る、出入り口と見られる植物の隙間から足を踏み出した。
サクリ。
晴恵が敷地の草を踏んだ途端に声が飛んでくる。
「勧誘お断り」
「違うんです、お忙しいところすみませんが」
「忙しい」
晴恵に背中を向けたまま、そっけない返事の主は声からするとまだ若いらしい。
凄腕職人の弟子だからだろうか? ずいぶん、横柄な態度だ。
晴恵は諦めずに声を掛け直した。
「あの、檜山さんに靴のオーダーをお願いしたいのですが」
「間に合ってます」
男のにべもない返事に、晴恵はとうとう声を荒げた。
「あの、急ぎなんです!」
「アンタだけじゃない、注文してくる客はみんなそう言うんだ」
だとしても折れるわけには行かなかった。