王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「敵に塩を贈るって。アンタ、馬鹿がつくお人好しだな」

 晴恵は唇を噛む。

 フリッツへの恋情を、やはり見抜かれていたのだ。
 だが。
 小さな妹を母に抱かせてもらって以来、掌中の珠のように慈しんできた。
 陽菜を全身全霊で守ってくれる男が片想いの相手であっても、妹への気持ちは変わらない。

「……敵じゃないもの」

 小さい言葉を檜山は聞き取った。

「トンビに油揚げをかっ攫われるんだ、少しくらい意趣返ししたってバチは当たらないだろう」

「妹のためじゃないわ、自分のためなの」

 陽菜にはとびきりの笑顔で嫁いでほしいのだ。
 そうしたら、あの人への想いを断ちきることが出来そうだから。
 
 晴恵は檜山から目を逸らさなかった。

「……妹の結婚式はいつだ」
「来月」
「デザインは決まっているのか」
「このドレスのイメージでお願いします」

 カラードレスを試着した陽菜のバストショット、全身の前後ろ、左右から撮った何枚かの写真を見せる。
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