王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「お母さんは一生懸命育てた娘を自分でフリッツのもとへ送り届けたいはずよ!」

 檜山と陽菜が微笑みあったり、腕を組むところなんて見たくない。

「第一、檜山さんにご迷惑でしょ」

 言い訳だ。晴恵が大迷惑だからだ。

「まだ、テーブルに余裕があるから一人くらい大丈夫!」

 不安は的中してしまった。陽菜は檜山を気に入ってしまったのだ。
 晴恵は波立つ心を鎮めようとしながら、なんとか落ち着いて話そうと心がける。

「陽菜、貴女だけのお式じゃないのよ。フリッツに確認もしないで、勝手なことをしてはダメ」
「だぁーいじょうぶだって。……あ、フリッツ?」

 噛みつく晴恵を前に陽菜はフリッツに電話すると、檜山参加の了承を取りつけてしまった。

 駅まで迎えに来てくれたフリッツに晴恵は家まで送ってもらった。
 陽菜はそのままフリッツの家に泊まるらしく、二人を見送ったあと家に入った。
 晴恵はシャワーを浴びてベッドに寝転んだが、怒りや嫉妬で眠れない。

 陽菜とフリッツは愛し合っているのだから、自分のヤキモチが不当なことはわかっている。
 檜山だって陽菜をフリッツから奪わないだろうが、それでも。
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