王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
『私の檜山さんなの、仲良くしないで!』と心が叫んでいる。


 次の日、晴恵は遅番だった。
 サロンは夜の十時までだから仕事帰りに檜山の工房には寄れない。陽菜が家を出るとすぐに彼女も家を出て、まっすぐに檜山のところに向かった。
 勤勉な商店街は朝九時からちらほら開いている。

「はるちゃん!」

 鯉屋の女将から声をかけられる。

「おはようございます」
「今日は早いんだねえ、ともちゃんは世話が焼けるでしょ?」
「はい! ……いえ」
「遠慮しなくていいわよ。あの子は野菜食べないし……、通い妻は大変よねえ」

 真っ赤になって縮こまる晴恵を前に、はっはっはと女将は笑う。

「昨日の残り物持たせてあげるから、少し待ってな」

「私と檜山さんはそんな関係ではなくて、」

「照れない、照れない。はるちゃんがともちゃんにベタ惚れなの、あたしらよくわかってるから」

「違いますっ」

「ともちゃんだってね。あんな気難しい子なのに、昨日ははるちゃんを駅まで送っていったろ」

 見られてたのか。
 しかし。

「あれは私を送ってくれたわけではなくてですね」
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