王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「はるちゃんはともちゃんによく尽くしてくれるしさ、あの子はこの商店街の人らにとっては自分の子供同様だから、嬉しいんだよ」

 お代を払うと言い張る晴恵に半ばおしつけた女将は、小走りに去っていく彼女の背中を見ながらつぶやいた。

「はやく、一緒に住めばいいのにねぇ」


「どうしよう……」

 誤解をとかねば。
 しかし、どこらへんが誤解なのだろうか。勿論、自分が檜山にベタ惚れということだ。
 踵を返し、鯉屋の女将に反論をしようとして唐突に気がついた。

「……違わない……」

 つまりはそういうことなのだ。
 いつのまにか、フリッツより陽菜より自分の心を占めていたのは。

「檜山さん……」
「なんだ」

 思わず彼の名前をささやくと、呼応するかのように背中から声がかかって飛び上がりそうになった。

「ん」

 ずいと紙コップが差し出された。

「え、と?」

 思わず受け取りながら、はるか上にある檜山の表情を読み取ろうとする。
 口をへの字にして目線だけよこす男の感情はよくわからない。

「キャラメルラテ。いつも飲んでるだろ」
「知ってたんですか」
「猫舌のくせにホット買うのもな」
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