王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 慌てて晴恵が追うと、檜山は彼女に合わせて歩調を遅くしてくれた。自覚してしまえば、男と並んで歩けるだけで幸せな自分がいる。

「大好き」

 聞かれないよう、そっと口の中で呟いた。

 檜山の家で、二人は鯉屋の女将が持たせてくれた惣菜を堪能した。
 食べ終わると話すことなく檜山は陽菜の足型の修正をし、晴恵は作業を見守り。彼女の出勤時間になるまで二人は時間を共有していた。


 ……幸せな時間は夜までだった。
 携帯電話を見れば、檜山から何度もメッセージが入っている。

 フリッツの営むフットケアサロンは静寂を保つため、店内での携帯電話やネットの利用をお断りしている。勿論、スタッフも休憩時間以外は利用を許されない。
 指定客が立て続けに入り、晴恵はサロン入りしてから携帯の電源をオフにしたままだった。

『妹を回収しにこい』

 何があったのだろう。
 陽菜が檜山を困らせたのは確実なようだ。
 妹は年の割りには幼いところがあって、注意すればするほど意固地になることがある。
 いても立ってもいられなくなり、晴恵は店じまいをしているフリッツに断ると、早めに帰らせてもらった。
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