王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「別に邪魔していないもの。それに結婚式の来ませんか、て招待状を持ってきただけ」

 筋が通ってるように思えるのが、晴恵を余計カッとさせる。

「……貴女、結婚間近っていう自覚があるの!」

 陽菜が不思議そうに首を傾げる。

「別に何も疾しいことなんてしてないもの。ねえ、檜山さん?」
 
 陽菜が檜山を振り返り、男が「ああ」と同意するのがまた晴恵の怒りの火に油を注いだ。

「それでも結婚前の娘が男の家にずっと居続けるなんて!」
「お姉ちゃんこそ。最近、色々なお惣菜買ってくるじゃない。わかったよ、ここの商店街のだったんだね。通ってるんでしょ?」

 非難めいた妹の言葉に頬が火照る。
 そうだ、檜山を邪魔していたのは、他ならぬ晴恵自身だった。
 日参していたのは、檜山の手から生み出される靴の美しさに魅せられたから。

「……檜山さんに陽菜の靴を作ってもらうためよ。それに私と陽菜だったら立場が違うでしょう?」

 声を絞り出した晴恵に、陽菜は我が意を得たりとばかりににこ、と微笑んだ。

「そうだよね! お姉ちゃんは私の靴をオーダーする為にこの工房に通ってただ
けだもんねっ」
「…………そうよ」
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