王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「Wofür ist es, Nate?」

 英語ではなさそうだとしかわからない。

「Gebiss? Hatten Sie eine 23 cm Damen? ……Ich verstehe, es ist nur ein Kredit」

 あまり楽しい会話ではなかったのだろう。
 檜山はふーっと太い息を吐き出すと、前髪をうるさそうにかきあげた。

 また携帯が光る。
 今度はメールのようで、檜山は檜山は文面を確認すると返信もせずに携帯をオフにした。

 晴恵が物問いたげな様子をしていたせいか、問わず語りに教えてくれた。

「さっきのは薬会社のCEOで、今のは映画俳優だ。どっちもアンタも名前を聞いたことのある奴」

 彼の顧客は世界中に散らばっているようだ。

「彼らはね、俺の作った靴を誰よりも早く手に入れたいがために、とんでもない額の金を出す。いらないと言っても、付け届けがわんさか送られてくる」

『本物は本物を知る』
 ふっと、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 目が肥えているセレブ達の、厳しく確かな審美眼にかなった檜山の靴。
 彼にいくらつぎこんでも、セレブ達にとっては正当な代価でしかないのだろう。
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