王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 フリッツと陽菜は抱きつかんばかりに見つめあっている。
 限界を超えた晴恵は二人から離れた。

「フリッツ、陽菜を頼むわね」 
「わかりました、まかせてください。おやすみなさい、晴恵」
「え?」

 事態が飲みこめていない陽菜は姉と婚約者を交互に見る。
 引き止められないことをいいことに、晴恵はさらに足を早くした。陽菜がうろたえる。

「お姉ちゃんっ!」
「陽菜、ダメ。晴恵は一人になりたい」

 晴恵は惨めだった。

 フリッツが陽菜に惹かれていくのを目の当たりにしても、こんなに嫉妬心に苦しめられたことはない。
 自分という女は勿論、聖人じゃない。
 けれど、恋愛については穏やかで居られる人間だと思っていた。

 しかし今回は違う。
『檜山さんだけは奪わないで!』叫んでしまいそうだ。
 ……自分のものではないのに。

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